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  • 執筆者の写真Kunizane Kaneda

鍛冶屋のあれこれ





昔は村に一件はあったという鍛冶屋。

林業や農業をされる方にとっては自分たちの仕事道具を作り、またメンテナンスを担う鍛冶屋は無くてはならない存在だったそうです。


ですが時代は変わり、仕事の手法も変化し、手仕事で行っていたことを機械で出来るようになっていきました。

手仕事の道具は役目が減り、それに伴い鍛冶屋の仕事も無くなっていきました。


今では古い道具だけが残され、その道具を直せる職人は一握りとなっています。



そんな時代に刀鍛冶をやっていると、時折『畑で使う鍬(くわ)や鋤(すき)の修理ができないか?』というお問い合わせを頂くことがあります。

なんでも昔は近所の鍛冶屋に頼んでいたけれど高齢化によって引退してしまい、直してくれる人が居ないと。

ホームセンターで買った道具はどうにも重たくて使いづらいから昔から使っている道具を直して使いたいというお話です。



ただ、残念ながらそれらのご希望にお応えする事が僕には出来ません。

『すいません、出来ません。』とお答えすると『やっぱり刀鍛冶さんはこういう雑な仕事はしてくれへんよねえ~』と仰られる方も居られるのですが、誤解です。


『したくない』ではなく『出来ない』です。



というのも、元来『鍛冶屋』とは作るモノによってかなり細分化された職業でして、例えば包丁を作る『包丁鍛冶』、鉋(かんな)を作る『鉋鍛冶』、玄翁(げんのう)を作る『玄翁鍛冶』などなど挙げていくとキリがないほど多様な鍛冶屋が存在しました。

それが需要の減少に伴い廃業や兼業をされるうちに現在の『野鍛冶(のかじ)』のように1人で色んな道具を作れる鍛冶屋という形になったわけです。


そしてその中で刀を作る鍛冶屋を『刀鍛冶』というだけの話です。

『特殊』ではありますが決して『特別』ではないのが刀鍛冶です。



料理に例えると少し分かりやすいでしょうか。

一流の和食のお店に行って『イタリアンを作ってくれ』とは普通は言わないと思います。

一流のパスタのお店に行って『ざるそばが食べたい』とも言わないと思います。


使う材料、使う道具、使う知識がそもそも違うのです。


もちろん勉強して(あるいは器用で)、別ジャンルの料理も卒なくこなす料理人の方も居られるとは思いますし、ファミレスの様にひとつのお店で色んなジャンルの料理が出てくるところもあるのですが、やはり和食は和食の専門店が美味しいですし、うどんはうどん屋さんが美味しいでしょう。



それと同じで、刀鍛冶に包丁を作ってくれ、鍬を作ってくれ、というのは同じ『鍛冶屋』でも専門外の仕事になるわけです。


鍛冶屋の中で上下があるわけではありません。

『日本刀』という存在がやけに神格化されているためか、『それを作る刀鍛冶は鍛冶屋の中で最も技術が優れている』と思われている方が非常に多い様な気がします。


が、前述した通り作っているモノが違うだけでどの仕事もそれぞれに難しさがあり、それぞれの仕事に一流が居ます。



作るモノが違うと使う材料も道具も知識も設備も変わります。


鍬を修理するのであればそれ用の鋼材が必要です。

刀を作るための玉鋼ではおそらく鋼の硬さが合わず欠けやすくなるかもしれません。


鍬のような形状をしたものを扱うにはそれ用に箸口を作った鉄箸(かなばし。熱い鉄を挟んで固定する道具)が必要でしょう。


鋼材が変われば焼入れ温度も変わります。

焼入れもどれくらいの硬さで入れればいいのか知識が必要です。


そして僕らの様な刀鍛冶の使う火床(ほど。鍛冶屋の炉。)は刀を作る事を想定した幅や長さになっていて、鍬のような幅の広いものはそもそも入りません。

『出来ない』のです。





『おじいさんが使っていた古い道具を直して大事に使いたい』という思いはきっと大切にすべき尊いものです。


ですが専門知識のない他分野の道具をハイハイと気軽に預かり、その結果壊してしまうのは職人として決してやってはならない事だと思っています。


『したくない』ではなく『してあげたくても出来ない』ということを少しでも多くの方に理解していただけると幸いです。


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